「痴漢」に関するお役立ち情報
夫が痴漢で逮捕された場合、釈放されるために妻ができること
夫(旦那)が痴漢の疑いで警察に逮捕された場合、犯行が悪質なケース・否認しているケースなどでは、逮捕された後に勾留決定が下される可能性があります。
勾留されると、最大23日間身柄を拘束されます。こうなると、会社は無断欠勤として解雇されるか、事件発覚による懲戒解雇とされる可能性があります。
そのため、何としてでも勾留を回避するか、早期の釈放を目指さなければなりません。
では、勾留されないため、釈放されるためにはどうしたら良いのでしょうか?夫が捕まったら、妻ができる行動には何があるのでしょうか?
ここでは、痴漢の逮捕・勾留に関する重要なポイントについて解説させていただきます。その後、釈放に向けた弁護活動についてご説明いたします。
1 痴漢は何罪?
「痴漢罪」という犯罪はありません。
痴漢を犯すと「迷惑防止条例違反」もしくは「不同意わいせつ罪」の容疑で逮捕される可能性があります。
電車内などでの痴漢行為は、迷惑防止条例違反と不同意わいせつ罪の両方に該当するものですが、実務上は、比較的軽微な痴漢の場合は刑の軽い迷惑防止条例違反、殊さらに悪質な犯行が刑の重い不同意わいせつ罪に問われます。
罰金刑がある迷惑防止条例違反と比べ、不同意わいせつ罪の刑罰は、「6か月以上10年以下の懲役」と重いものとなっています。
罰金刑がない不同意わいせつ罪では、起訴をされたら略式起訴(書類上の手続きだけで罰金となる「略式手続」という裁判手続きを求めるもの)とはならず、正式起訴(公開の法廷で裁かれる正式裁判手続きを求めるもの)となります。
有罪判決となった場合、軽くても執行猶予付き懲役刑となりますから非常に重い犯罪といえます。
2 逮捕・勾留とは
⑴ 逮捕による身体拘束
痴漢をした場合、その場で現行犯逮捕されるケースもあれば、被害届をきっかけとした捜査活動等により通常逮捕(後日逮捕)されるケースもあります。
逮捕された場合、身柄は、まず警察署の留置場に拘束され、警察からの取調べを受けます。
次いで、逮捕から48時間以内に身柄が検察官のもとに送致され、検察官による取調べを受けます。
その結果、犯罪の嫌疑と証拠隠滅や逃亡のおそれがあり、さらに身柄の拘束を続けて捜査を行う必要があると判断されると、検察官は、裁判所に対し、長期の身体拘束である勾留を許可するよう勾留請求を行います。
この勾留請求は、検察官が身柄を受け取ってから24時間以内かつ逮捕から72時間以内に行う必要があります。
裁判官が検察官の請求を認めると、勾留状が発布され、それが執行されることで、逮捕から勾留に切り替わります。
それまでは、逮捕の状態が継続していることになります。
この記事をご覧になっている方の中にも、まさにこの逮捕の期間中の方が家族にいらっしゃる方もいるかと思います。
要注意なのが、この逮捕期間の間は、奥様を含めたご家族さえも、逮捕されている夫に面会ができない点です。
逮捕の期間内に身柄拘束されている夫に会えるのは、弁護士だけです。
⑵ 最大20日間拘束される「勾留」
「勾留」では、逮捕と同様に身柄が拘束されますが、その身柄の拘束期間が(起訴前は)通常10〜20日間というように、逮捕と比べてかなり長期間です。
つまり、欠勤が10日〜20日続く可能性があります。
勤務先に対して、何らの理由も説明せずに、これだけの長期欠勤をすれば、労働義務(服務義務)違反として懲戒解雇となる可能性が高いです。
一方、痴漢で逮捕・勾留されたと正直に説明すれば、会社の信用を失墜させる行為として、やはり解雇されてしまう危険があります。
痴漢行為といえども、会社の業務とは無関係な私生活上の問題行動ですから、痴漢行為を理由とした解雇は、法的には許されません。
しかし、法的に無効な解雇であっても、その効力を争って闘うことは、多くの時間とコストがかかります。
また、解雇が無効であっても、減給や出勤停止などの解雇に至らない程度の懲戒処分を受けてしまい、サラリーマン社会では致命傷となる危険性があります。
3 釈放されるための弁護士による刑事弁護活動内容
無断欠勤は1日たりとも避けたいところです。
かといって、正直に理由を申告することはリスクが大きすぎます。
このため、夫が痴漢で逮捕された場合は、家族から「急病」を理由として欠勤を連絡しておくケースが多いようです。
その場しのぎの言い訳ですが、身柄拘束を短期で終わらせることができたならば、疑われる危険性はありません。
「夫が職場をクビになったら、今後の家族の生活はどうなるのか」「住宅ローンや車のローン、子供の教育費が払えなくなるのでは」など、奥様の精神的負担は図り知れません。
最悪の場合、夫婦関係が破綻して離婚という重大な事態にもなりかねません。
そのような心配・不安を解消するには、何よりも、身柄拘束を短期で終了させることが必要なのです。
それには弁護士による刑事弁護活動を早期にスタートさせることが重要です。
弁護士は「釈放」に向けて、各種の勾留阻止活動、被害者との示談等を行うことになります。
以下では弁護士の活動の一部を紹介します。
⑴ 逮捕されている被疑者との面会
先述のように、逮捕中に被疑者と会うことができるのは弁護士のみです。
したがって、逮捕された夫と話したいことがある場合には、奥様が弁護士に「これとこれを夫に聞いて来てほしい」と頼み、弁護士が警察署等に行って夫と接見し、夫の回答を奥様にお伝えすることになります。
刑事弁護の依頼を受けた弁護士が奥様の伝言やご主人の伝言を伝えることは、逮捕された方にとって外部との情報の交換をする唯一のルートであり、本人と家族等の不安・心配を解消し、捜査側との戦いに備えるために、非常に重要な役割です。
⑵ 勾留阻止
勾留は必ず行われるものではありません。
検察官が裁判官に勾留請求するか否かを様々な証拠を踏まえて判断し、裁判官がその請求を検討した上で、理由と必要性があれば勾留決定するという仕組みになっています。
そこで弁護士は、まず、検察官に、家族の身元引受書や上申書、弁護人意見書を提出して、勾留請求をする必要がないと働きかけることができます。
また、勾留決定に先立っては、裁判官から被疑者に対して勾留質問が行われますが、弁護士は、被疑者に質問への対応方法を助言するとともに、弁護人意見書を裁判官に提出したり、事前に裁判官との面談を求めたりして、裁判官に勾留決定しないよう働きかけます。
⑶ 準抗告
残念ながら勾留されてしまった後でも、弁護士は、勾留決定を取り消すべきと不服申立をする裁判(準抗告)を提起することもできます。
⑷ 示談
勾留阻止や準抗告のために大切なのが、被害者との示談交渉です。
示談は、示談金を支払う代わりに、被害者が被疑者を許す旨の意思を表明して、被害届や刑事告訴を取り下げてくれる(あるいは、今後、被害届や刑事告訴を提出しないことを約束してくれる)という合意です。
これにより、被害が賠償済みであり、被害者の処罰感情も無くなったことが明らかになり、被疑者に有利な事情となります。
示談が早期に成立して検察官に示談書を提出すれば、特に迷惑行為防止条例違反の痴漢の場合には、勾留請求を阻止できる可能性が高くなります。
勾留済みの場合でも、延長請求されずに釈放されることが見込めます。
示談が成立している以上、多くの場合、もはや証拠隠滅や逃亡の危険は失われている、と判断されることが期待できるからです。
また、示談の成立は、被疑者に有利な事情として考慮されるので、迷惑行為防止条例違反の場合のみならず、不同意わいせつ罪として立件されている場合でも、不起訴処分となり、刑事裁判を受けることなく、前科もつかずに事件を終了させられる可能性が高まります。
示談では、まず、弁護士が捜査機関に被害者の連絡先を教えてもらい、弁護士が被害者に電話し日程調整をします。
弁護士は被疑者の方が書いた謝罪文をお渡しするなど、被疑者が心から反省していること・再発防止を約束することなどをお伝えして、示談の交渉を行います。
示談内容に納得していただけたら、示談金(慰謝料)をお渡しし、示談書に署名をいただきます。
交通犯罪(人身事故)の刑事弁護 不同意わいせつの示談交渉を弁護士が行うメリット